朝日放送「キャスト」(2017年10月30日)

【ABC特集】目は見えなくても…ブラインドメイクがくれた光

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第62回(2017年度)新聞・通信・テレビ・ニュース報道展(関西写真記者協会)

優れた報道作品を選ぶ関西写真記者協会の選考会で、朝日放送が放送した、「目の不自由な女性が歩む自立への道」の特集が、企画部門の「金賞」を受賞しました。
子どものころに病気で両目の視力を失った女性が、手を使って化粧をする「ブラインドメイク」で自信を取り戻し、自立へ向かって歩む内容です。前向きに生きる姿を暖かいまなざしで伝えたと評価されました。
【会期】
京都展 2017年12月6日~12日 10時~21時(最終日18時)
    イオンモールKYOTO SAKURA館センターコート
神戸展 2017年12月14日~19日 10時~20時(最終日19時)
    さんちかホール
大阪展 2017年12月20日~26日 10時~20時(20~23日は21時、最終日16時閉場)
    阪神梅田本店 8階催場
                 
展示内容 協会賞、各賞を含め写真100枚を展示
     協会賞、各賞を含む映像11本を放映(京都展のみ13本)
     今回初の試みとして各賞映像内容を説明するパネルも展示します(11枚)
広島展
2018年1月4日~9日 天満屋アルパーク店  展示内容未定

ニュース内容:【ABC特集】目は見えなくても…ブラインドメイクがくれた光
「ブラインドメイク」をご存じですか?手や指だけを使った、視覚障害を持つ人のための化粧法です。「メイクをすると、前を向く自信がついた。」突然の病魔で両目の視力を失い、ブラインドメイクで自分の力で生きていく勇気を取り戻した女性がいます。
音と手の感触だけが頼り
大阪市内のマンションで1人で暮らす、石垣愛華さん(29)。彼女の両目は今、全く見えません。
「Q.家の間取りは、どうやってわかるのですか?」(記者)
「私から見た左側が窓で、11時の方向にテレビがあって、2時くらいの方向にクローゼットが。だいたいテレビをつけていれば、音が中心になって左右に何があるとかだったり。」(石垣愛華さん)
生活の全てにおいて、音と手の感触だけが頼りです。
幼い頃から襲い続けた病魔が、光を奪う
愛華さんは、生まれつき目が不自由だったわけではありません。沖縄で生まれた愛華さん、つぶらな瞳がキラキラと輝く女の子でした。
しかし、生後まもなくして、病魔が彼女を襲います。
「網膜芽細胞腫っていう、眼の小児がん。両眼性でその時に進行の早かった左目を摘出して、4カ月の頃から義眼が入っていて。」(愛華さん)
治療でかろうじて右目の視力は残りましたが、中学3年の夏、再び病魔に襲われます。突然の激しい頭痛と吐き気。検査の結果、「骨肉腫」と診断されました。手術は難しいとされ、抗がん剤での治療が始まると髪は抜け落ち、かろうじて見えていた右目の光も、3年前に失ってしまいました。
「お母さんが夜勤で家にいない時は、泣いていました。」
「やっぱり家族の顔だったり、友達だったり、もし結婚して子どもができても、子どもの成長する顔が見えない、姿が見られないと思うのが一番つらかったです。」(愛華さん)
ブラインドメイクとの出会い
たくさんの涙を流した愛華さん。しかし、1つの出会いが彼女を変えていきます。
目の不自由な人でも化粧ができる「ブラインドメイク」。筆などの道具は使わず、指を左右対称に動かしながら化粧をする方法です。「これなら私にもできる!」愛華さんは去年、メイクを学べる大阪へ引っ越し、本格的に習い始めました。
「自分に自信がついた。メイクしたら、何でも1人で出来ちゃうんじゃないか、っていう気になれた。」(石垣愛華さん)
目が見える人と同じ仕事がしたい
これまで、沖縄であん摩マッサージ師として働いていましたが、自分の可能性に挑戦したいという気持ちが生まれました。
「やっぱり、普通に晴眼者(視覚に障害がない人)と同じ仕事がしたい。自分で選んだ仕事がしたいっていうのがずっとある。」(愛華さん)
自立への第1歩。愛華さんは、職業訓練センターに通い始めました。
「代理で報告書を作ってと指示があるので、きれいな報告書として出せるようにしてください。」(訓練センター指導員)
パソコンを使って、ビジネス文書などを作成する授業。画面上に記された文章は音に変換され、それを聞き取ります。流れてくる音声の速度は通常の3倍。素早く文章を作るため、この速さで聞き取れるように練習しています。また、入力した文字を音声で一つ一つ確認しながら、文章を作っていきます。
「音読みや訓読みで教えてくれるので、『石垣』だと『岩石』の『石』に『垣根』の『垣』、『愛華』だと『愛おしい』に『中華』の『華』と教えてくれます。」(石垣愛華さん)
電話交換業務の訓練では、右の耳で相手の話を聞きながら、パソコンにメモを入力していきます。
「はい、石垣商事でございます。」(愛華さん)
「◯◯商店の渡辺と申します。」(訓練センターの生徒)
入力した内容はすぐに音声に変換され、左の耳で聞き取ります。左右の耳で別々の音を聞き分けているのです。
「会社に入ると、総務などで、代表電話を取ることが必要になる。事務職に就職するときも、電話を取ることは最低限は出来たほうがいいと思って、訓練に取り入れています。」(訓練センター指導員)
職業訓練とともに始めた1人暮らし
雨の中、1人で買い物に出かける愛華さん。激しく叩きつける雨音が、車や人の気配をかき消します。やっとのことでたどりついたスーパーでは…。
「たまねぎ78円、こちらくらいの大きさになりますが。」(スーパーの店員)
「お願いします。」(愛華さん)
店員に誘導してもらいながら、商品を一つ一つ手に取り、確認していきます。
職業訓練と同時に始めた1人暮らし。料理が好きな愛華さんは、ほとんど毎日自炊をしています。
「Q.手を切ったりしない?」(記者)
「うーん、逆に目が見えていた時のほうが、切っていたかもしれない。今は慣れているし、見えない分、気を遣っているのもあるので。」(石垣愛華さん)
この日のメニューはグラタン。外にこぼれないよう箸でフライパンの大きさを確認しながら、仕上げのチーズをまぶしていきます。
ブラインドメイクで夢に挑戦
ある朝、お化粧をする愛華さんの姿がありました。マスカラをつけ、口紅を塗り、目元にはアイシャドウ。愛華さんにとって、この日は特別な1日。ある会社の面接に向かいます。
「緊張と自信が半分半分。平常心で行きたいと思います。」(愛華さん)
愛華さんが面接に訪れたのは、「ブラインドメイク」を通して知人に紹介された、つけまつげなどを販売する美容関係の会社です。緊張の面持ちで、面接の時を待ちます。
「石垣さん、お入りください。」(社長)
「お名前をお願いします。」(会長)
「石垣愛華です。」(愛華さん)
大きな声で、はっきりと。自分の思いをぶつけます。
「メイクをすることによって、顔を上げられるようになって、人に声をかける勇気が出ました。」
「ブラインドメイクをたくさんの視覚障害者の方に広めること、私がウィッグ(かつら)をつけているので、がん患者の方々にもウィッグの楽しさや、ウィッグをつけて元気になることも伝えられたらいいな、と思う。」(石垣愛華さん)
面接は無事に終了。愛華さんは手応えを感じていました。
きらきら輝く希望の光
一歩一歩、歩みを進める愛華さん。
自らの力で切り開いた道。愛華さんは希望していた会社で、また新たな一歩を踏み出しました。
「見えなくなってからの私のほうが、すごく生き生きしていて、楽しく生きている気がして好きです。たぶん、これからもつらいこともあると思うんですけど、乗り越えられる自信があります。」(愛華さん)
彼女の瞳には今、きらきら輝く希望の光がさしています。
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